それから数日間、色んな場所でちょこちょこ穴を掘った。
水のかわりに出てきたのは骨だけだってのがやるせない。
オレが町にいるあいだにグループが二つ来て、そのときだけは井戸掘りの手を止めて交渉に立ち会った。
それなりに顔の売れているオレが珍しく出て行ったもんだから、グループのリーダーはあっけに取られてから苦笑して、簡単な言葉を交わしただけで町を後にした。
おかげで株も上がって、穴を掘る奇妙な男として見られていたオレに向けられる視線の意味が少しずつ変化し、妙に居心地が悪い。
「そろそろ次の町に行くか」
シャベルをかついで荒野に目を向ける。
この町に水脈がないのはわかっていたが、どうしても立ち去る事ができなかった。
その理由が、目の前にいた。
「次の町?」
少女の名は、アンジュという。最初は警戒をあらわにしていたが、痩せて顔色は悪いながらも元気な笑顔を見せてくれるようになった。
「そこで、井戸を掘るの?」
続けて問いかけ、アンジュはオレと同じように荒野を見つめた。
「ちょっと水と食料多めに分けてもらって、人のいないところも掘ってみようかなって」
アンジュに視線を戻し、笑いながらそう返して少しだけ眉をひそめた。まだ十歳になったばかりの少女の体には、不自然なほど包帯が巻かれている。
腐臭を放たないのが不思議なくらい、それが日に日に増えていく。
関わらないほうがいい。
そうささやく自分に従うように、オレは作り笑いを彼女に向けつづける。
「アンジュの服って、青いんだな」
話題を変えるように口を開いた。
薄汚れていて始めはよくわからなかったが、彼女も青い服を着ている。町の人間の多くは、何かしら青いものを身につけている。
「うん」
アンジュは頷いて空を仰いだ。
「雨が降りますようにって、お祈りなんだって」
よく耳にするその風習がちょっとおかしかった。
海を探して旅に出る者がいれば、青い服をただ身にまとって雨を待つ者がいる。どっちがいいかなんてわからないけど、オレはどちらも選べなかった人間なのだろう。
「ね」
アンジュがオレを見上げる。
「今日、ごちそう作ってもらうから家においでよ」
そう言った彼女は、本当に無邪気な笑顔だった。
その彼女の背後にひかえた月が、いやに大きくて気味が悪かった。