世界がどうなっているかなんて、オレは知らない。
生まれたときから大地は乾き、雨というものが降らなくなった。そりゃたまには降るさ。一年に三回くらい。
それはスコールと呼ばれる恵みの雨。
ここ数年、それすらも無くなっちまったけど。
おかげで誰も彼もが水を求め、食料を求めて旅に出た。
オレの住んでいた町はそうやってあっという間に廃墟になって、文字通り草木も生えない土地になった。
少しは頑張ってふんばろうって気にはならないのか……って、ならなかったんだろうなぁ。
ガキだったオレは母親に連れられて町を捨てた。あそこを出なきゃ、風土病で母親を死なす事なかったんじゃないかって気付いたのは、20歳過ぎてからだった。
我ながらヌケていると思う。
「……ダメか」
長旅で唯一手放さなかった一番でかい荷物はシャベルだ。これだけは何があってもかついで歩く。
別に深い意味はないけど、あるかどうかもわからない海を探して歩くより大地を掘った方が性にあうってだけの話。
今はそれを地面に突き立てて低く唸り声をあげた。
掘り起こした土をつまむ。
指でこすり合わせて、もう一度唸り声をあげる。
渇いた砂が音をたてていた。
子供一人がすっぽり入るほど掘って、軽く肩をもみほぐした。
ほんの数時間前は町を探すのに必死だったってのに、町に辿り着いたとたん元気になって、今は井戸を掘るので必死だ。
我ながら現金だとは思うけど、井戸が掘れればめっけもんだし。
まぁ、今まで一度も掘り当てた事なんてないけどさ。
ふと視線を感じて顔を上げると、少し離れた場所に女の子が立っていた。
ガリガリに痩せた、包帯だらけの少女だった。睨むようにオレを見て、少しだけ後退りした。
町は荒廃が進んでいる。あと数年もしたら、きっと皆ここを出て行くだろう。
それまでに、どれくらいの命が消えるんだろう。
――墓は、作ってもらえるんだろうか。
小さな子供を見ながら、そんなことを考えた。