肩を
よくある事だと、フィリシアは表情を険しくする。
憂さを晴らすためだけに暴力を振るう、弱者が弱者でしかないと思い込んでいる哀れな者たち。
くすみきった世界の片隅で、男たちは手にした棒を振り上げていた。
フィリシアは腰にさげた剣を鞘ごと取り外す。こんな馬鹿ども、剣を抜くまでもない。――手入れが面倒になるだけだと、彼女は端的に思う。
剣が鞘から抜けないように固定すると、彼女は手にした二振りの剣を軽く重ねた。
鈍い音が響く。
その音に、意外なほど男たちが素早く反応した。
フィリシアは地面に丸くなるようにして呻いている男に目をやる。あの姿勢なら臓器の損傷はまだ最小限だろう。
内心安堵し、まっすぐに男たちに向き直った。
男たちの動きを見て多少苦戦するだろうと覚悟していた戦いは、驚くほどあっけなく終わった。
鞘に納まった剣で軽く空を斬り、フィリシアは信じられないものを見るように目の前の光景を凝視する。
「……腕、上がってるんだ……」
いつもディック相手にからかわれながら剣を振っていたから気付きもしなかった。
少しずつだが確実に磨き上げられていった己の力に。
必要なとき以外は使うべき力ではないと感じながら、フィリシアは地面に倒れこんだ暴漢たちを見た。
「やっぱりアイツ、すごいかも」
本人はどうしようもない男だが、その腕は本当に本物なのだ。
フィリシアは苦笑して剣を小脇に挟んで体を丸めていた男に近付いた。
「大丈夫?」
手を差し伸べると、男は慌てて顔をあげた。それと同時に、小さな動物が体の下から怯えたように顔をのぞかせる。
「ああ、助かった」
男は大きく息を吐き出してそう呟くと、投げ出されていた木を手にしてよろめきながら立ち上がった。
無垢な瞳を向けてくる動物を抱き上げながら、フィリシアは男を見詰めて息をのむ。
「すまない、ビックリしただろ」
男は恥ずかしそうに頭をかいて、自分の左足を見た。
「傭兵だったんだ。……そのとき、ちょっとね」
上等とはいえない義足がついた足に苦笑いする。戦争はどこにでも起きる。それで傷つかない人はとても少なくて――彼は、その中で生き残ったのだろう。
「そう」
フィリシアは返す言葉を見つけられず、小さく頷いた。
彼が体を動かすと、腰につけた皮袋が音をたてた。
「不用心よ」
フィリシアは男の腰を指差す。足が不自由で大金を持って歩いているのなら、目をつけられても仕方がない。
もちろん強奪しようとする者が最も悪いに決まっている。だが、最小限の危険ですむよう防犯に徹するのは身を守る方法の一つでもある。
「ちょっと大金が入って……その子を、買おうと思って」
男は苦笑して頭をかいた。
「ここら辺は危険なのを知ってたんだけど、つい急いで……」
ガリガリ頭をかく。
大金を平気でごっそり使う馬鹿者がいるかと思えば、その金で小動物を買おうとする者もいる。世の中おかしなものだと苦笑して、フィリシアは男に言葉をかけた。
「家まで送るわ」