夜会は散々だった。フィリシアのその醜態は、記憶がないためと簡単に片付けられたが、実際にはそんな単純なものではない。
一晩ゆっくり休んで、少女はベッドから飛び起きた。
「このままじゃだめ。絶対にダメ」
天井から床に着くほど長いカーテンを勢いよく開けて、彼女は拳を握る。
「なんかよくわかんないけど、エディウスもアーサーもヤバイし」
兄弟そろってかなり怪しい。ある意味、あの二人は挙動不審な点がある。昨日一日で、そのことは嫌というほど思い知った。
「まぁ人のこと言えないんだけど」
記憶喪失の少女は、溜め息混じりに己の境遇にあきれた。
探さなければいけないのは、一年前の自分。
そして、それに深くかかわってしまったのだろう二人の男の過去。
「泣くのはもう終わり。必ず見つけてやる」
たとえどんな事実が待っていたとしても、それから目をそむけたりはしたくない。思い出さないままのほうが幸せでいられるような気がする。
でも、思い出したい。
(きっと、アーサーは何かを抱え込んでる。エディウスも、たぶん)
「なにができる? 私は、何をしたらいい?」
答えを見つけなければ前に進めない。見つけなくても時間は確実に過ぎてゆく。だが、その先にある未来は自分が望んだものと成り得るだろうか。
アーサーは未来を知っているといった。
あの言葉の意味も、今はまだわからない。
「私を恨んでないって言ってくれた。アーサー……私、その意味も知らないの。知らなきゃいけないのよね? いつか知ると思って、その言葉をくれたんでしょう?」
自らに問いかけるようにささやいて、フィリシアは顔を上げた。