著者:月のなぎさ 凌月 葉様(ブログ、MIDIあり)

想い

 つま先だちでふらつく体を桜の幹に添えた手で支えながら、小柄な少女が校庭で繰り広げられる光景を見詰めていた。少女の名前は、呉羽美里。鬼ケ里高校の一年生だ。彼女が視線を送る先には、彼女が唯一友達と呼ぶことができる人物。朝霧神無の姿があった。
 
 今日、ここ鬼ケ里高校では卒業式が行われた。鬼ケ里高校の卒業式は、三月に入ると直ぐに行われるのが恒例となっていた。今年の卒業式には、神無の生涯の伴侶となる鬼。鬼頭と呼ばれる、木籐華鬼とその庇護翼を勤める士都麻光晴が出席していた。
 
 校庭には、いくつもの人だかりができており、その人だかりの一つの中心に神無と、そのぴったりと寄り添うように立つ華鬼の姿があった。そして、神無達を取り巻く人だかりから、少し離れたところにある、少し大きめの集団の中心には、周りを取り囲む人達よりも、頭一つ分だけ高い長身の鬼が居た。美里が密かに思いを寄せる、光晴だった。執行部会長という役職にいた彼は、その容姿も手伝って学園内ではかなり目立つ存在だった。当然、彼のことを慕う女子生徒も少なくはなかった。
 
 昨年末の鬼ヶ里祭のダンスパーティで、光晴は暫く放浪の旅にでると告げた。その後一旦里に戻ってきた彼だが、姿をくらましていた冬休み中に、卒業を機に里を出た後の算段をしてきたのだという。彼を慕う在校生の女子生徒たちは今日で見納めとなるせいか、卒業式が終わってから、かなりの時間が経とうとしているにもかかわらず。彼を取り巻く人並みは、一向に減る様子をがなかった。
 
「ふぅ」
つま先立ちにの姿勢に疲れたのか、校庭にできた人だかりの中に入っていく勇気が無い自分に対しての諦めか、美里は大きなため息をついてから桜の幹に寄りかかって俯いた。
「そこからじゃ、よく見えないだろ?」
突然頭上からかけられた耳慣れた声に、美里は驚きの表情を向けた。桜の太い枝の上に、少女のような可憐な容姿の少年、美里のクラスメイトの早咲水羽がいた。
「ここからだとよく見えるけど、上がってくる?」
悪戯っぽく笑う少年に、美里は力なく首を横に振って見せた。すると水羽は、小さく息を吐いてから、突然、立っていた枝から下に飛び降りた。水羽が立ってた枝は、普通の人間なら到底骨折程度ではすまない、と思われるほどの高みにあったのだ。美里は、思わずギュッと目を瞑った。
「こんなところに居たんだ。神無が探してたよ」
頭の直ぐ上から降ってきた言葉に、美里は思わず水羽の顔を見上げた。水羽は、校庭に視線を向けたままだった。
美里の身長は153cmしかない。そのために、男性の中では小柄体型の水羽のことも、隣に並ばれると見上げなくてはいけなかったのだ。そんな美里の視線に気づいたのか、水羽はふっと美里を見下ろしてくる。
「ほら、いつまでもこんなところに居ないで、神無達のところに行こうよ」
美里の腕をそっと引く水羽に対して、美里はスッと身を引いて首を横に振った。
「なんで?今日で神無が休学しちゃうこと、呉羽だって知ってるだろ?」
美里は黙って頷く。どうやら、そこから動く気がないらしいクラスメイトトに向かって、水羽は小さなため息をつく。
「……ちゃいそうだから」
俯いた美里の口から、蚊の鳴くような声が聞こえた。
「え?なに?」
「私、泣いちゃいそうだから……」
隣にいる水羽だけがようやく聞き取れるくらいの声で、美里はそう呟いた。
「なんで?なんで泣いちゃいけないわけ?友達との別れを惜しんで泣いてくれるのを、嫌だと思うやつなんか居ないと思うけど?特に神無は、そういう子じゃないことくらい、呉羽が一番よく知ってるでしょ?」
コクリと頷く美里。しかし、その足は頑として動く気配はない。どうしたものかと、水羽がもう一度校庭に視線を送ると、何かが差し出されたような気配を感じて、美里に視線を戻した。
「あ、あの」
「なにこれ?」
美里が差し出した紙袋を見て、水羽が口を開く。その口調には、少し苛立ちが感じられた。
「これ。神無ちゃんに……」
美里の言葉を聞いた途端に、水羽の表情が険しいものに変わった。
「あのさ。そういうものは、自分で本人に渡すものなんじゃないの?」
吐き出された口調の強さに、美里ははっきりと水羽の怒りが込められているのを感じ、地面に向けた顔をさらに俯けた。
「それにさ、呉羽だって、神無にいわなくちゃいけないことあるんじゃないの?」
水羽の言葉に、思い当たることがあるのか、美里は俯いたままビクンと体を強張らせる。
「呉羽って、思ったよりもずっと頑固だな。分かったよ」
水羽は、しばらく美里の様子をうかがっていたが、投げ出すようにそう言った。
「全く、花嫁の友達のお守りは、三翼のテリトリー外なんだけどな」
水羽は、美里に聞こえないようにボソッと呟くと姿を消した。
 

 一人残された美里は、大きなため息をつく。
 大好きだった姉が嫁ぎ、自分に惜しみない愛情を注いでくれた両親も他界した。
 もう一人で生きてくしかないと諦めかけた時、目の前に現れたのが神無だった。
 静かにただ時が過ぎるのを待つだけだったはずの学園生活は、神無と友情をかわすことで一変した。一度は手放してしまったと思ったぬくもりが、自分の下に訪れてくれたことを感じ、心の底から嬉しいと思った。
 
 しかし、そのぬくもりをくれた神無は今日で休学してしまう。本来なら、彼女の休学は、もう少し先に行われる修業式を終えてからになるはずだった。しかし、華鬼の希望で、華鬼が学園を離れる日、つまり華鬼の卒業式が行われる今日で休学することになったのだ。
神無が休学をする理由を考えれば、友達として、「おめでとう」と喜んであげなくていけないのだろう。現に美里は、神無のためにお包みを編み上げていた。そしてそれは、手にした紙袋の中に、キレイにラッピングされて納まっている。
 
 でもどうしても、勇気が出ないのだ。神無に心配をかけたくない。神無を困らせたくないと思えば思うほど。彼女の前で、泣くずれてしまいそうな自分の事が、どうしても許ずにいた。そして、もう一つ。神無のちかくに行くと事は、光晴のところに近づくことを意味していた。どう考えてみても、あの人だかりの中に入っていく勇気はない。かといって、女子生徒にもみくちゃにされている光晴の姿を目の当たりにする勇気も、今の自分にはなかった。
 
「はぁ」
 美里はまた、大きなため息をついて桜の木を見上げた。枝先には、まだ硬い蕾がたくさんついていた。多分、自分はこの桜が咲くところを見ることはないだろう。自分で決めたことなのに、胸の中にある不安に押しつぶされて息もできなくなりそうで、美里はまた大きなため息をついた。
 
「美里ちゃん」
遠慮がちに呼ばれた自分の名前に、美里は身を硬くしたまま振り返る。
「かん、な、ちゃ……」
 なんとか神無の名前を呼ぶと、いままでグッと堪えてきた感情が溢れ出してくる。
 それでもそれをぐっと抑えて、無理に笑顔を作ろうと顔をゆがめた途端、美里の瞳からボロボロッと涙が零れ落ちる。そして美里はそのまま動けなくなり顔を覆って嗚咽を漏らした。
ふと暖かなぬくもりが美里を覆った。神無だった。神無よりも、一回り小柄な美里の体が、神無の腕の中にすっぽりと包まれた途端、美里はとうとう神無の胸に顔をうずめて声を出して泣き出した。
「ごめんね」
美里の頭の上から、搾り出すような神無の声が降ってきた。美里は、その言葉に何か答えようと口を開くが、でてくるのは嗚咽ばかりだった。
暫くしてから、美里にぴったりと身を寄せるようにしていた神無が、少しだけ身を離した。
その気配に、美里は神無を見上げる。
「美里ちゃん、今までいろいろありがとう」
涙で顔をぐちゃぐちゃにした神無の笑顔がそこにあった。
「ううん、私のほうこそ。ありがとう。神無ちゃんと友達になれて、ほんとによかった」
美里がふっと笑うと、ゆがんだ目尻から涙がこぼれ、美里が手にした紙袋の上に、ボロボロっと音を立てて落ちていく。
「あ、そうだ。これ」
抱きしめた紙袋が、見事にしわくちゃになっているのを見て、美里は慌てて申し訳程度に皺を伸ばすと、すっと神無の前に差し出した。
「これ、私に?」
「あの、約束してたお包み。編みあがったから……」
紙袋を手にした神無の顔が、またくしゃっと歪む。
「ありがとう。大事にするね」
美里は黙ってこくりと頷いた。

「呉羽?」
少し離れたところから、水羽が声をかける。その声に、水羽に視線を向けた美里は、はっとした面持ちになる。水羽は、美里の顔を見て、何かを促すように静かに頷いた。
「あ、あの、神無ちゃん」
「ん、なに?」
涙声のまま、神無が答える。美里は、少しいい淀んだあと、静かに口を開いた。
「私ね、四月から里を離れることになったの……」
「え?」
「ここをやめて、看護科のある高校に入ることになったんだ」
「……」
美里の突然の言葉に、神無は次の言葉をつむげずにいた。


美里が麗二の下を訪れて相談したのは、このことだった。神無も光晴も去ってしまった学園にそのまま残ることは、今の美里には考えられなかった。しかし、闇雲に鬼ケ里高校を去るわけにもいかない。そうして美里は考えた末、一日も早く自分ひとりの力で生活していくことができるように、手に職をつけることを考えた。

 そして彼女なりに行き着いた答えが、看護婦になることだった。看護学校であれば、寮を完備しているところも多い。しかし、今の時期に入学を許可してくれる看護学校があるだろうか?そこまで考えて、美里は麗二に相談することを思いついた。麗二は、知り合いを通じて、高校の看護科への入学の手はずを整えてくれた。しかも、下宿先まで紹介してくれたのだ。しかし、美里はそのことを神無に話さなかった。別に、神無に隠しだてしようと思っていたわけではない。ただ、なぜか話すことができずに、今日まで時が経ってしまったのだ。水羽が言った、神無に話さなくてはいけないこととは、このことをさしていた。

「もう、決まったんだね」
「うん。高槻先生が尽力してくれたから」
「え?」
思わず神無が麗二に視線を向ける。美里の進路について、華鬼も話を聞いては居なかったのだろう。華鬼も驚きの表情で麗二を見た。
「別に、隠し立てしようと思っていたわけではないんですよ。ただ、こういうことは、本人の口から話した方がいいと思ったので」
麗二は、華鬼と神無の顔に順番に視線を送りながらそう言った。

「高槻先生、その節はありがとうございました」
美里は、麗二に向かって頭をさげた。
「いえいえ、こちらこそ。呉羽さんのように優秀な成績の方なら大歓迎だそうですよ。呉羽さん、頑張っていい看護婦さんになってくださいね」
「はい」
美里は、目尻に涙をたたえたまま、嬉しそうに頷いた。
「美里ちゃんなら、大丈夫や。きっと、優しくて、ええ看護婦さんになる」
いつの間に駆けつけたのか、少し離れたところに光晴が立っていた。


「し、士都麻先輩……」
光晴の姿を目にした途端に、落ち着きが無くなる美里の腕を、神無がそっと掴んだ。美里が、はっと神無を見上げると、神無は大丈夫というように、優しく微笑んで頷いた。

「そうだ、おい、そこの悪戯坊主、ちょっと来い」
「へ?僕?」
突然、悪戯坊主呼ばわりをされた水羽は、つかつかと歩み寄ってきた光晴に羽交い絞するように拘束されると、つつっと少し離れた場所に引きずられた。
「なに?苦しいよ、離してよ!」
光晴の腕のなかで、水羽が声を上げた。
「水羽、ポケットの中のもの出せ」
「は?いったい何のこと?って、ちょっ、ちょっ、ちょっと……」
水羽の言葉が終わらないうちに、光晴は水羽の制服のポケットをごそごそと漁り始めた。
「きゃはは、やめろよ、くすぐったいってば!」
水羽のすべてのポケットを漁りつくすと、光晴は麗二に視線を向ける。

「そこのちょい悪おやじも、ちょっとこっちに来てくれへんか?」
「ちょ、ちょい悪おやじって。私のことですか?」
麗二は不服そうな顔をしながらも、光晴の強い口調にすごしごと従った。

「水羽から預かったものがあるやろ?黙ってここに出してくれへんか?」
麗二を強い口調で呼んだ割には、小さめな声で話す光晴。その様子に麗二は苦笑をもらす。
「なんのことでしょうか?」
「俺も、鬼頭の三翼を担う鬼や。いくら水羽が、『準の早咲』と呼ばれるやつだったとしても、自分の制服のボタンを持っていかれたことくらい、気づかんと思うか?」
「知ってたんだ」
光晴の拘束が解かれた水羽は、しれっとして答える。
「ま、当然といえば、当然ですかね?」
麗二はポケットから、何かを取り出す。そこには、制服のブレザーのボタンらしきものが3個ほど握られていた。
「やっぱり、麗ちゃんが持っとんたんか。ま、早々に水羽が持っていってくれたおかげで、ボタンが下手なやつの手に渡らんで済んだという意味では、二人に感謝せなあかんな。おおきに」
光晴は、麗二の手のひらからボタンを受け取ると、くるっと水羽の方に振り向いた。
「でな、水羽。お遣い頼まれてくれへんか?」
「お遣い?」
怪訝そうな顔をする水羽の耳元に、光晴はグッと顔を近づけると、何かをこそこそと話し始めた。


美里は、がらんとした部屋を見つめながら、手のひらの中にあるものをギュット握り締めた。美里は今日、女子寮を出て看護学校の寮に引越しをする。ギュッと握りしめた手のひらには、制服のボタンが3個握られていた。

卒業式の数日後、美里は水羽に呼び出され、そこでこのボタンを手渡された。
「それ、光晴のボタンだから」
「へ?」
驚く美里に、水羽は小さく息を吐いてから口を開いた。
「あのね、御守り代わりに持っていけってさ、光晴が」
「え?」
「一応、鬼頭の三翼の中でも、『剛の士都麻』と呼ばれた鬼のボタンだから、厄除けぐらいにはなるだろうってさ」
「……」
驚きで次の言葉がつむげない美里の瞳には、うるうると涙が溢れていた。
「じゃあ。確かに渡したからね」
「は、早咲くん……」
踵を返して教室へ向かおうとする水羽を、美里が慌てて呼び止めた。
「なに?」
「士都麻先輩は、いつ戻ってくるのかな?」
「さあ、わかんないな」
「でも、また戻ってくるよね?」
「そのうち気が向けば帰ってくるんじゃないかな?」
「あの、士都麻先輩に、ありがとうございましたって伝えてください」
「分かった」
「あと……。早咲くんも、いままでいろいろとありがとう」
「あはは、お礼なんかいいよ。僕だって、呉羽の友達なんだからさ」
「早咲くん……」
「じゃあ、僕は先にいくから」
水羽は、さっと片手を上げると教室を後にした。



あの日、水羽の耳元に顔を寄せた光晴は、ボタンを美里に渡してくれるように頼んできた。
「自分で渡せばいいもじゃないか」
「あほ。大人には大人の事情ってもんがあるんや。俺が渡すわけにいかないから、お前に頼んでるンやろ?」
「なんだよ、大人の事情て。分けわかんない」
「俺が、美里ちゃんの気持ちに気づいてないと思うか?」
「え?」
「でも、俺は鬼や。で、彼女は刻印もなにもない、健康な人間の女の子や。これがどういうことか分かるやろ?しかも俺は……」
そこまで言って、切なそうに眉をしかめて押し黙る光晴。
「彼女はこれから世にでて、彼女にふさわしいパートナーにめぐり合うんや。美里ちゃんなら、きっとええ母親になれる」
光晴の想いを知った水羽は、黙って頷いてボタンを受け取った。
「俺は明後日には里を出る。だからそのボタンは、俺が里を出た後に、美里ちゃんに渡して欲しいんや。『剛の士都麻』と呼ばれた鬼の制服のボタンや、ま、厄除けくらいにはなるやろ」
光晴はそう言うと、神無とことばをかわしている美里にさりげなく視線を送った。


 美里が女子寮の木戸をくぐって表に出ると、彼女の荷物を載せた小さなトラックとタクシー、そして、職員宿舎の別棟に住まう面々が彼女を出迎えてくれた。

「美里ちゃん」
「神無ちゃん、皆さん。見送りありがとうございます」
美里はいつものように、深々と頭をさげた。
「美里さんが居なくなると寂しくなりますね。暇ができたら、遊びに来てくださいね。お待ちしていますから」
麗二が言葉をかける。
「美里さんも神無さんも、私にとっては娘みたいな感じなんで、実家だと思っていつでもいらしてくださいね」
もえぎは、美里の手を取って声をかけた。
美里は、麗二ともえぎの顔を見てから、お世話になりましたと頭を下げた。

「本当に行っちゃうんだな」
水羽はボソッと呟く。
「早咲くん、ほんとにいろいろとありがとう」
「お礼なんかいいって言ったろ?」
「そうだったね。私、早咲くんとも友達になれて嬉しかったよ」
「僕も。呉羽はすぐに無理をしそうだから、体だけは気をつけろよ」
「うん、そうする。ありがとう」
「それと、いつになるかわからないけど。伝言は確かに伝えるから」
「早咲くん、ありがとう」
水羽に頭を下げたあと、美里は神無と華鬼の前に立った。
「大変だろうけど、頑張れよ」
突然頭の上から降ってきた華鬼の声に驚いて、美里は慌てて顔を上げる。
「き、木籐先輩。見送りありがとうございます。これから神無ちゃんと幸せになってください」
一見すると無表情に見える華鬼だったが、ここのところの付き合いで、美里にも華鬼の瞳の奥に微かに浮かぶ華鬼の感情の色を、感じることができるようになっていた。
鬼頭と呼ばれる最強の鬼が、今は自分との別れを惜しんでくれているのを感じて、美里は胸が詰まる想いで深々と頭を下げた。
「神無ちゃんも、見送りありがとう……。元気な赤ちゃんを産んでね」
「美里ちゃんも元気でね。産まれたら知らせるから、逢いにきてね」
「うん。その時は絶対くるから、知らせて」
「うん」
神無のぬくもりに触れ、美里はふっと自分の気持ちが揺るぎそうになるのをぐっと堪え、スッと一歩後ろに下がって、神無の顔から視線を皆に移した。
「本当に、いろいろとお世話になりました」
一気にそういうと、また深々と頭をさげた。

タクシーの座席に座って振り向くと、女子寮の前で、皆が手を振っているのが見え、美里も大きく手を振り替えす。
 少し前まで、皆の後ろからひょこっと顔を出していたはずの人物の顔が脳裏を掠めたが、それを振り払うようにして大きく息を吸い込み、前に向かってシートに深く座り直した。

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著者:月のなぎさ凌月 葉様(ブログ、MIDIあり)

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