act.2  夜明け


 ぱちりと陸が目を開けると、隣には呆然と座り込む要がいた。
「お〜い、無事かぁ?」
「……ああ」
 いつもなら、この馬鹿なに考えてるんだ、その頭は飾り物か!? と心地よい弾丸トークが耳にできるはずなのだが、なぜか要は妙におとなしかった。
「――お前、オレかばったからな」
「そだっけか?」
 パッと見、昔から一回り小さい要を「守ってやんなさい!」と母親に言われ続けた陸は、ほとんど条件反射で動く。そのおかげで腕を折ったり足を折ったりと、なかなか起伏の激しい人生を送っていた。
「ま、お前無事ならいいや」
 よっと体を起こす。今回は幸いなことに、大して酷い怪我をおった感じはない。
「……れ? 陸橋の高さってどのぐらい??」
 腕の一本は持っていかれたと、とっさに思ったのだが。
「陸。陸橋の高さはどうでもいい」
 淡々と、美少年はつぶやいた。
 その横顔が、真っ赤に染まっている。血の赤ではない、どこかオレンジがかった鮮やかな赤――
 まるで微動だにしない幼馴染に不審を持ち、同じ方角に目をやる。
 彼が見詰める先に、陸の目が釘づけになった。
 世界が朱に染まっている。
 その鮮やかな赤の中に、溶け込むように悠然とかまえる城。まだ建造中なのだろうその巨大な城の後方には大森林が、前方には密集した家がところ狭しと軒を連ねる。城の正門の前には大きな道があり、その道は町を突っ切り長く長く伸びていた。
「え……?」
 自分たちのいる場所。
 陸橋から落ちたのだ。そこは砂利の敷き詰められた線路でなければならない。
 だが、実際はそうじゃない。
 そこは小高い丘の上。眼下に広がる世界を一望できる、見たこともない場所だった。
「陸、見ろ」
 要は静かすぎる声で言った。
「夜明けだ」


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