『魔術師の対話 〜金のたまご編〜』

「こんなところにいたんだ? 捜したよ、オーギュスト」
「なんで捜しに来るんだよ。お前、実はヒマなのか」
「ヒマな人間がわざわざ時間を割いて森の中に人捜しにくると思う?」
「ヒマだから来るんだろ」
「心配して捜しに来たとか思えないのかなぁ」
「単位のことか、セルキトア。学年主席も大変だな」
「すぐそうやって言うんだね、君。常力検査では僕より君のほうが優秀だったってのは有名な話じゃないか」
「結果がともなわなきゃ意味がないってののいい一例だったな」
「それは君が魔法詠唱を怠るからだろう」
「あんな言葉よく平気で言えるな。それだけは賞賛に値する」
「まさかオーギュスト、詠唱が恥ずかしくて言えないの?」
「恥ずかしいなんて言ってない。バカらしくて口にするのも嫌なだけだ」
「たまにいるって聞いたけど、オーギュストも照れ屋のクチ? じゃあ詠唱、苦痛だろうね」
「恥ずかしいなんて言ってないだろ。俺は詠唱の必要性を認めたわけじゃないから、あえて唱えたくないだけだ。だいたいなんだよ、あのキザったらしいセリフ。よく言えるな?」
「詠唱は契約の一環だよ。盟約を結んだ精霊を呼び出し、魔力を代償に超常現象を起こす。魔術師の能力次第じゃ自分の魔力を上乗せさせて放出するんだ。想像を超える威力を発揮した事例だってある。照れてる場合じゃないだろ」
「だから、照れてるわけじゃない。そこに必要性が見い出せないって言ってるんだ。風よ、くらいなら俺だって言える」
「オーギュストって契約精霊いないんだよね? 契約精霊なしに魔術を使うんだから、君は間違いなく天才の部類なんだけどなぁ」
「俺が使うのは自助のほうだ」
「それは知ってる。でも、普通は精霊魔法と自助魔法の両方学んで適したほうを専攻するだろ。場合によっちゃ、使い分けたほうが有利だし、上乗せすれば精霊と自助の両魔法が混ざり合ってすごい威力が」
「別に、学校卒業できればいい」
「なんでかなー。もったいないよ、オーギュスト。精霊捕縛は必須じゃないけど、凍りつく谷や翠の空なんか、希少な精霊がいるのになかなか許可がおりない秘境中の秘境じゃないか。フェルフォーブスに入学したなら、希少精霊は率先して捕まえるべきだと思うね」
「お前の見解なんて訊いてない。それに、精霊なら一匹」
「え? なに?」
「なんでもない。とにかく、俺は今後一切、精霊を捕縛する気はないから」
「頑固者。学校卒業できなくても知らないぞ。僕はこれでも君の能力を高く評価してるんだ」
「どう言われようとお断りだ」
「詠唱くらい慣れれば簡単なもんだろ? 北に住まいし眷族よ、我が言の葉にしたがい古の盟約の名の元に」
「だから、それが嫌だって言ってるんだよ。あらかじめ決められた呪文詠唱ならいくらでもやってやる」
「契約精霊は自分の言葉で話しかけなきゃ応じない」
「それが嫌だって何度も言ってるだろ。来やがれクソッタレって呼んで尻尾をふる精霊なら大歓迎だけど」
「精霊は、呼びかけ、盟約の形、発動の条件、掉尾ちょうびを一定の形にして口宣くぜんして始めて力を示すものだよ。そんな型破りな詠唱じゃ尻尾どころか張り手が来そうだな」
「俺には必要ないって言ってるだろ。精霊魔法がなくてもやっていける」
「それは君の魔力の数値が桁違いだから可能なんだ。考えてもごらんよ、いつもそんなに元気とは限らないだろ? 魔力を温存したい場合には精霊魔法が一番いい。窮地にそなえる事も魔術師には必要だと思うけどね」
「底がないくらい魔力を溜めればいい」
「そういう屁理屈言わない。希代の大魔術師だって、先の五年戦争で魔力が切れたって言うじゃないか。君、一体どれくらい溜めれば自分の安全が確保できると思う? 戦争はいまだに終わっちゃいないんだよ」
「戦争に出る気なんてない」
「ああ、君ならそういうと思った」
「なんだよ」
「いや、なんていうか、いいや。気にしないで」
「おかしな奴だな」
「とにかくさ、精霊魔法の詠唱練習しようよ。もったいないよ」
「だから必要ないって言ってるだろ」
「自助魔法って疲れない? 本当なら自助魔法にだって詠唱は必要なんだよ」
「なくても魔法が使えるならそれでいいって先生に許可もらった」
「それって」
「無理やりつるし上げた」
「そういうことするから評判悪くなるんだってば。自覚あるの?」
「形だ作法だって話ばっかりで埒が明かない。ようは魔法が使えればいいんだろ? なにか不都合でも?」
「試験に合格すれば先生も文句ないだろうけどさー嫌な生徒だよね、実際」
「うるさいな。それより、なんで来たんだよ?」
「え?」
「用事があったんだろ?」
「あ、忘れる所だった。いっしょに食事でもしようと思って」
「ああ、へー。……そう。別に、いいけど」
「あれ? どうして急に疲れた顔になるの?」
「気のせいだ。食事だろ、行くぞ」


「……」
「……」
「……」
「……ステファン先生」
「はぅ!? こ、ここここ校長!?」
「こんな場所でどうしたんです?」
「こ、こんな場所だなんて、た、ただの散歩ですわ!」
「木陰に隠れながら息を殺すとは変わった散歩ですな」
「あ、あの、見てました?」
「途中から」
「すみません、つい気になって」
「覗き見は感心しませんが……しかし、変わった組み合わせですなぁ」
「はぁ。オーギュスト君は天才肌、セルキトア君は努力家とまったく正反対なのですが、なんだか気が合うようで」
「そうですか。まあ友人を得るというのはよい事です」
「はい」
「……しかし、六歳児の会話ではありませんな」
「そ、そうでございますね……」

=終=

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