携帯を切ってカバンに突っ込んだ。10時に駅前の公園西口でって約束して、その待ち合わせの時間を過ぎて10分――あたしを待たせるなんていい度胸じゃん? そう思って電話したら、
「ごめん、これから家出るから!」
 だって?
 ふ・ざ・け・ん・な。
 まさか忘れてたってわけ?
 なんであんたの為にこれから20分もこの寒空の下待ってなきゃいけないのよ。
 あたしが風邪ひいたら看病でもしてくれるっての? 学校だバイトだって忙しいのは知ってるけど、デートくらい時間守れよ。
 ……楽しみにしてたのに。
 カバンの中で派手な音をたてて携帯が鳴ってる。
 着メロであいつだってのはわかるけど、出る気にもなれない。しばらく放っておいたら切れるだろうなって思って辺りを見渡したんだけど、耳障りなくらい陽気に鳴り続ける携帯は切れる気配がない。
「うるさい」
 根負けしてカバンに手を突っ込み、耳に当てるなり、
「ばーか」
 一声かけて電源を落とした。たまには焦れ。いくら付き合いが長いからって、いい加減にもほどがある。あたしがもてないと思って安心してるんだろうけど、ちゃんとこれでもナンパされるんだから!
 浮気してから焦ったって相手にしてやるもんか。
 そうだよ、いい男はいっぱいいるんだ。何もあいつだけにこだわるコトないじゃん。
 よし、浮気しよう。……ふりだけでもそうしよう。
 到着してからの態度で許してやらないわけでもないけどさー。
 でもここで待ってたら本当に風邪ひきそう。曇ってるし風強いし、気合入れて可愛いミニスカートなんかはいちゃったもんだから、足元から寒い。
 視線をさまよわせて、近くのファミレスで時間を潰すことを思いつく。
 ファミレスからなら公園も見えるし、あいつが焦る姿も観察できる。意地悪かなとは思うけど、これくらいはしてやらないと。
 よし、善は急げっていうもんな。
 寒さに負けて足早に移動してると後ろから誰かがついてくる。人通りの少ない道だから珍しいなって思ってると、
「すみません!」
 そんな男の声がしてドキッとした。
 ほらほらほら! 結構もてるんだから、あたしは!
 ちょっと自慢げに心の中で叫んで、でも不自然にならないように何気なく振り返った。
「はい」
 お、結構カッコいい。身長も高い、がっちりした体型の男だ。年齢は……あたしより少し上かな。大学生か社会人?
 ってか、あたしモテモテじゃ〜ん。
 照れたように視線をそらして、男は足早に近づいてきた。
 一瞬何かをもごもご口の中で言う。
 まさか一目惚れとか言わないでよ。一応彼氏いるんだし、心の準備がまだできてないよ。
 ぐるぐる考えながら彼を見上げると、長身を折り曲げるようにあたしの耳元に顔を寄せてくる。
 だ、大胆な人だ。でも、こんなのもいいかも。
 言葉を待ってるあたしに、彼は小声で言った。
「スカート、めくれてますけど」
 ぬ、が――!!

  Back



一言感想フォーム  *は必須項目です
*作品名   ご意見 
コメント
Powered by FormMailer.(レンタルサーバーリンク)