真っ青な空を見上げ、カラカラに乾いた空気を肺から吐き出した。
ぬけるような空には雲ひとつなく、変わりにいやに大きな太陽と白い月が静かに浮かんでいた。
荒野を歩き始めて十日目の朝。
……オレ、死にそうなんですけど。
「あのクソジジイ、地図間違えやがったな」
貴重な食料と交換して手に入れた地図は、黄ばんでバリバリ音がする。オレといっしょでずいぶん渇いているらしい。
もう汗も出やしねーぞと心の中で毒づいた。口を開くとそれだけで水分が蒸発していく。
ここで倒れたら間違いなく死ぬな。
短い人生だったなぁと皮肉に笑いながらも、まだ死にたくないとでも言うように足が前に出る。無意識にフードをかぶりなおし、防護マスクを固定した。
体に染み込んだ一連の動きがオレの命をつないでいる。
ああ、これじゃとうぶん死ねないじゃないか。
食料も水もないってのに、この荒地でどうやって次の町を探せばいいんだよ。
見渡す限りの平野に苛立ち以上の焦燥感がつのる。
溜め息をつこうとして、オレは息を止めた。
はるか前方――
ゆらりと、町が揺らめいた。
世界がどうなっているかなんて、オレは知らない。
生まれたときから大地は乾き、雨というものが降らなくなった。そりゃたまには降るさ。一年に三回くらい。
それはスコールと呼ばれる恵みの雨。
ここ数年、それすらも無くなっちまったけど。
おかげで誰も彼もが水を求め、食料を求めて旅に出た。
オレの住んでいた町はそうやってあっという間に廃墟になって、文字通り草木も生えない土地になった。
少しは頑張ってふんばろうって気にはならないのか……って、ならなかったんだろうなぁ。
ガキだったオレは母親に連れられて町を捨てた。あそこを出なきゃ、風土病で母親を死なす事なかったんじゃないかって気付いたのは、20歳過ぎてからだった。
我ながらヌケていると思う。
「……ダメか」
長旅で唯一手放さなかった一番でかい荷物はシャベルだ。これだけは何があってもかついで歩く。
別に深い意味はないけど、あるかどうかもわからない海を探して歩くより大地を掘った方が性にあうってだけの話。
今はそれを地面に突き立てて低く唸り声をあげた。
掘り起こした土をつまむ。
指でこすり合わせて、もう一度唸り声をあげる。
渇いた砂が音をたてていた。
子供一人がすっぽり入るほど掘って、軽く肩をもみほぐした。
ほんの数時間前は町を探すのに必死だったってのに、町に辿り着いたとたん元気になって、今は井戸を掘るので必死だ。
我ながら現金だとは思うけど、井戸が掘れればめっけもんだし。
まぁ、今まで一度も掘り当てた事なんてないけどさ。
ふと視線を感じて顔を上げると、少し離れた場所に女の子が立っていた。
ガリガリに痩せた、包帯だらけの少女だった。睨むようにオレを見て、少しだけ後退りした。
町は荒廃が進んでいる。あと数年もしたら、きっと皆ここを出て行くだろう。
それまでに、どれくらいの命が消えるんだろう。
――墓は、作ってもらえるんだろうか。
小さな子供を見ながら、そんなことを考えた。
空き家はたくさんあった。
その一軒を宿に決め、シャベルをかついで街中を闊歩する。
途中で昨日の少女が小走りでついてきた。
包帯が増えている気がする。
すこしびっこをひくようにしてついてくるもんだから、なんとなく気になって歩く速度を落とした。
「なぁあんた!」
適当に目算をつけてシャベルを大地に突き刺すと、男の声が遠慮がちにかけられる。
「なに?」
黙々と掘りながら口だけ動かすと、男は一瞬だけ沈黙してすぐに言葉を続けた。
「ロードランナーだろ?」
そう問いかけられ、オレはようやく手を止めた。
なんだよ、交渉したいなら初めからそう言えよ。
オレは井戸掘りに忙しい――とは言わずに、視線だけを投げた。青いシャツを着た線の細い男が汗をふきながら立っていた。
その向こうには、じっとこちらを伺う少女の姿があった。
……何してるんだ、あの子。
ただ立ち尽くすその姿を視界にとどめながら、オレは男と向き合う。
「近くに、グループが来てるって噂を聞くんだ」
言葉を探すように男が語る。
この場合のグループは、賊を指す。荒野を徘徊して食料や水を根こそぎ奪っていく集団は、年々確実に増えている。
そいつらに目をつけられたら、町なんてあっという間に干上がっちまう。
それを事前に食い止めるのがロードランナーの仕事。まぁオレも、町がなくちゃ生きていけないから協力はするけどね。
「いくつグループが来てるか、知りたい」
男は緊張した声で告げた。
「交渉のしかたも?」
「できれば」
ぎこちなく頷く。ああこりゃ、修羅場くぐった事ないってタイプだな。大丈夫かよ。
あんまりにも不安そうな顔をするから、こっちも適当にあしらう事ができなくて丁寧に説明をしてやった。
オレが持つのは知識だけだ。グループの規模や、趣向、考え方や行動――そこから、交渉のときに役に立つ知識を情報として提供する。
けどこれは、ただ噂話をかき集めただけのハリボテの情報じゃない。
場合によっちゃ、グループの中に入り込んで顔を売る事だってする。
やりすぎで始末された仲間もいた。
オレは幸い、交渉は得意だからいまだに生きてるけど、運が悪ければとっくに死んでたんだろうなぁ。
感慨深げに過去を思い出しながら、ポケットを探った。
ひとつ厄介なグループが近くにいる。
目をつけられたら、たぶん町が干上がるどころの騒ぎじゃなくなりようなタチの悪い奴ら。
オレはポケットから取り出したコインを確認すると、男の手に握らせた。
「骸骨のシンボル見つけたらそれ見せて、ルゼの落し物だって言ってみな。一回くらいなら見逃してくれる」
「――ルゼ」
男は口の中でもごもごと繰り返し、思い当たったようにオレを凝視した。
「じゃあ、あんた……」
手の中のコインをそれとわかるほどきつく握り締めたその顔には、驚きと安堵が見え隠れしていた。
ロードランナーにはいくつかのランク付けがある。
それは交渉時に役に立つ情報の多さであり、その出所――加えて、信用の高さ。
自慢じゃないが、嘘なんてただ一度もついた事のないオレの情報はそれだけで価値が出る。
「なにが欲しい?」
男は一瞬考えてからそう口を開いた。
上質の情報には高額の請求があると、そう覚悟している顔だった。
「んじゃ、滞在中の水と食料、次の町までの地図、そこにつくまでに必要な水と食料――少し余分に出してくれると助かる」
また迷っちゃ
心の中で苦笑して続けると、男は目を丸くした。
「それだけで?」
いいのかと、言いたいらしい。ったく、最近ロードランナーって威張りすぎなんじゃないの?
きっと無理難題押し付ける奴が多いんだろうな。
一人旅なんだから荷物が増えても困るし、貴重な時間を遊んでいるのはもったいないとは思ったが、それは言わずにシャベルを握りなおした。
「それだけでいいよ。よろしく」
オレの言葉を聞いて、男は心底安堵したように大きく息を吐き出した。
そして再び場所を移動して穴を掘り始めると、律儀なことに少女は距離をおきながらもついてきた。
旅人はさほど珍しくもないだろうに、何でついてくるんだろう。
変なガキだと笑ったら、すぐそこに少女の姿があった。
「なに、してるの?」
じぃっとオレの手元を見る。
オレもつられて乾ききった大地を眺めた。
「水掘ってるんだよ」
「水?」
「そう」
「……海を探しに行かないの?」
「海、なぁ」
旅人のほとんどは、海を探して旅にでる。オレはただ永遠に広がるばかりの空を振り仰いだ。
「あると思うか?」
逆に問い掛けると、少女は戸惑いながら首を傾げた。肯定も否定もできないらしい。実際に見た奴がいないんだから、確かに頷けないのだろう。そして、否定するには勇気がいる。
命の源といわれたその場所は、伝説のようにただ語り継がれるだけの場所。
「オレは、海を探すより井戸を掘りたい」
ざくりと音を立てて土がシャベルを迎え入れる。
「どっかにあるはずなんだ――水脈が。枯れてない土地が」
願いのような祈りのような思いで、大地を掘り起こす。
もうあきらめたいという気持ちと、まだあきらめられないという思いが胸の奥で交錯する。
「うん」
不意に少女は頷いた。
ちょこんと大地に腰をおろし、少女は微笑んでいた。
「うん、だいじょうぶだよ」
小さな手がいたわるように大地に触れる。
それを見て、ただ無性に泣きたくなった。
それから数日間、色んな場所でちょこちょこ穴を掘った。
水のかわりに出てきたのは骨だけだってのがやるせない。
オレが町にいるあいだにグループが二つ来て、そのときだけは井戸掘りの手を止めて交渉に立ち会った。
それなりに顔の売れているオレが珍しく出て行ったもんだから、グループのリーダーはあっけに取られてから苦笑して、簡単な言葉を交わしただけで町を後にした。
おかげで株も上がって、穴を掘る奇妙な男として見られていたオレに向けられる視線の意味が少しずつ変化し、妙に居心地が悪い。
「そろそろ次の町に行くか」
シャベルをかついで荒野に目を向ける。
この町に水脈がないのはわかっていたが、どうしても立ち去る事ができなかった。
その理由が、目の前にいた。
「次の町?」
少女の名は、アンジュという。最初は警戒をあらわにしていたが、痩せて顔色は悪いながらも元気な笑顔を見せてくれるようになった。
「そこで、井戸を掘るの?」
続けて問いかけ、アンジュはオレと同じように荒野を見つめた。
「ちょっと水と食料多めに分けてもらって、人のいないところも掘ってみようかなって」
アンジュに視線を戻し、笑いながらそう返して少しだけ眉をひそめた。まだ十歳になったばかりの少女の体には、不自然なほど包帯が巻かれている。
腐臭を放たないのが不思議なくらい、それが日に日に増えていく。
関わらないほうがいい。
そうささやく自分に従うように、オレは作り笑いを彼女に向けつづける。
「アンジュの服って、青いんだな」
話題を変えるように口を開いた。
薄汚れていて始めはよくわからなかったが、彼女も青い服を着ている。町の人間の多くは、何かしら青いものを身につけている。
「うん」
アンジュは頷いて空を仰いだ。
「雨が降りますようにって、お祈りなんだって」
よく耳にするその風習がちょっとおかしかった。
海を探して旅に出る者がいれば、青い服をただ身にまとって雨を待つ者がいる。どっちがいいかなんてわからないけど、オレはどちらも選べなかった人間なのだろう。
「ね」
アンジュがオレを見上げる。
「今日、ごちそう作ってもらうから家においでよ」
そう言った彼女は、本当に無邪気な笑顔だった。
その彼女の背後にひかえた月が、いやに大きくて気味が悪かった。
案内されたその建物は、他のものとくらべて大差ない造りをしていた。井戸を掘る場所を探しているあいだに何度か前を横切っていると思う。
「あら」
椅子に腰掛けていた小柄な女が、テーブルにすがるようにして立ち上がる。
「お母さん、ロードランナーの人。ルゼだよ」
少し不自由そうにアンジュは母親に近づいていく。
女は驚いたような顔をしてオレを見た。
「そう……じゃあ、食事の支度を、しなくちゃ」
アンジュを引き寄せるその手付きは優しげだった。それなのに、アンジュの横顔が少しこわばって見えた。
アンジュの母親は、アンジュ以上に足が不自由らしい。彼女は娘に支えられて奥へ続く廊下へと歩き出す。オレはどうしようかと一瞬悩み、すぐに彼女たちのあとを追った。
部屋はさすがに空き家とは違い、生活の香りがする。
ゴミがいたるところに落ちていたが、それでも空き家独特の静寂が存在しないその空間はほっとする。一人旅がつづくせいか孤独には慣れていたが、決して一人が好きというわけではない。
人と触れ合うとそんなことを再確認してしまう。
どこかで腰を落ち着ける生活も悪くないなと顔を上げたとき、そのあまりの衝撃的なシーンにオレは言葉を失った。
少女が無言で椅子に腰掛けている。
口元を薄汚れた布で覆って、ぎゅっと目を閉じ顔をそらしている。
少女の包帯を巻かれた細い腕が、テーブルの上に乗っていた。
おかしなテーブルだと、混乱したまま思った。
四方に溝があり、穴があいている。その穴にはホースのようなものに繋がっていて、ホースの下にはバケツがあった。
まるで液体をそこに集めるように。
その奇妙なテーブルの上にアンジュは腕を乗せている。
何をしているのかよくわからなかった。
けれど、
――世界は、混沌としている。
生きる為の手段を選べる人間はほんの一握り。そして、選択肢がないまま死ぬ者が大半を占めるのと同じように、選択を与えられた者もそれを誤れば死が待つばかりの世界。
オレは偉そうなことは何もいえない。
説教なんてガラじゃないし、そんな教養だってあるはずもない。
でも、それでもこれが間違ってるって事ぐらいはわかる。
体に増えつづける傷は、そうやって作られたのだろう。
怒りと憤りで真っ赤に染まる視界めがけて、手にしたものを投げつけた。鈍い音に、女の悲鳴が混じった。
「なにやってるんだ、あんた!」
取り落とした鉈が床に深々と突き刺さる。
――そんな物で。
そんな物で、娘の腕を落とそうとしていたのか。何のためにと聞こうとして、その必要がないことに漠然と気付いた。
「自分の娘だろ!?」
「だからこうするのよ!」
問いに、悲鳴が答えた。
「食べなきゃ死ぬのよ! 大丈夫、ちゃんと――ちゃんと今までうまくやってきたんだから。血だって無駄にしない。一滴だって、ひとかけらだって」
ぞっと背筋が冷えた。
「生きてるとき食べるか、死んでから食べるか、そのくらいの差しかないじゃない。だったら……!」
娘を刻んで、命を繋ぐとでもいうのか。
オレはそれ以上の言葉を遮るように手元にあった壊れかけの置き物を投げつけた。それは女の脇を通過して、壁ではじけた。
「アンジュ、来い!」
鋭く呼ぶと、真っ青になったアンジュは一瞬身をすくませながらも慌てて台から降りた。
わずかに躊躇い、彼女は振り返ってわなわなと震える母親の姿を凝視する。そこにいたのは母親≠カゃない。その顔はまるで、獲物をとられていきどおる獣のものだった。
「その子はウサギなのよ。死んだら月にいけるの――ねぇそうでしょ、アンジュ」
微笑みながら両手を広げる――その、おぞましさ。
「どこに行くの? 食事の支度ができないわ」
本気でそう思い、本気でそう口にしているのだろう。オレはアンジュを引き寄せるとその細い体を抱き上げた。
ああ、やっぱり軽い。
でも命は、そんなに軽いものじゃない。
こんな時代だからって、軽視していいものじゃない。
アンジュはオレにしがみ付いて肩を震わせた。今まで、何を言われて過ごしてきたのだろう。
旅人が来て睨みつけたのは、自分が傷つくと知っていたからなのか。
それでも彼女は俺を食事に招いた。
月になんて、行けるわけないのに。きっとアンジュもそれはわかっているだろう。
それでも、彼女はオレを招いた。
「アンジュ、オレと来るか?」
ここよりは優しい世界を見せてやれるかもしれない。そんな事を思って問いかけると、無言のままきゅっとしがみ付いてきた。
それを答えとして受け取り、アンジュを抱きしめたまま踵を返す。
「待って! どこに行くの!? その子――その子、返してよ!」
背後から聞こえるのは悲鳴。そして、何かを引きずるような音。
「あんた人の子さらって、何もなくなったら食べるんでしょ!? 私といっしょよ! アンジュ、かえしてよォ!!」
悲鳴。
「お願い――お願い! せめて……!」
オレは耳を塞いだ。心の、耳を。
「海がどこにあるのか教えてぇ!!」
それからその町には一度も行かなかった。
五年たった今でも、時々アンジュの母親の言葉を思い出す。
――彼女の言葉は、ある意味とても正しかった。
腕の中をしみじみと眺めて苦笑する。
「……あのさ」
物思いにふけっていると、不意に男の声がオレを現実へと引き戻した。
「ルゼとアンジュって、兄妹って言ってなかった?」
「うん」
深々と頷く。
だって、そう言わないと不自然だったし。詮索されるのが面倒臭くてそういう名目で二人でずっと旅を続けていたのだ。
渡り歩いた町の数はかなり多く、井戸を求めて掘り起こした土地はそれ以上に多かった。
旅の途中、自分の弱さに気付いて何度もアンジュを置き去りにした。
そんな過去が、今では本当に懐かしい。
柔らかく腕の中の命を抱き上げる。
「で、なんで子供がいるわけ?」
目の前の男が胡散臭そうにオレの胸を指差した。
「可愛いだろ〜オレにそっくり。ジュナでちゅよ〜よろしく〜」
左右に軽くゆすると、ジュナの笑顔がはじけた。
親バカと呼べ。こんな可愛い生き物がこの世にいるのはまさに奇跡だ。バカと呼ばれようと、呆れられようと、自慢せずにいられるか。
デレデレと溶けきったオレの顔を見て、男は肩を落とした。
「これがあの、凄腕のロードランナー……」
その功績はアンジュのお蔭でもあるんだけど。まぁ、それもいまさら関係ない。
抱きかかえられてきゃあきゃあ喜ぶ娘の笑顔が、これからオレが守っていくものだ。
そして、もう一つ。
「ルゼ?」
部屋のドアを開け、アンジュが顔を出した。出会った頃とはガリガリに痩せて痛ましかった彼女は、その傷も癒え、今ではオレのよき伴侶にして母でもある。
アンジュは見覚えのある男の顔に目を丸くして、そして少し目立ってきた腹部をそっとさすりながら微笑んだ。
「お茶入れるね」
「ああ――無茶するなよ」
「大丈夫」
クスクス笑って、彼女がキッチンに向かった。
外からも笑い声が聞こえる。楽しげな話し声は絶え間なく続く。
「……アンジュ、えぇっと……」
「二人目。次は男の子がいいよなあ。女の子も可愛いけど」
ジュナをくすぐり、窓の外を見た。
ポツポツ広がる緑は、命の色。その真新しい緑の芽に、女たちが丁寧に水をまく。その脇で男たちが大地を耕していた。
「……井戸、あったんだな……」
しみじみと目の前の男がつぶやいていた。
「いや、噂でさ……ルゼが井戸を掘り当てたって……誰も信じてなかったけど」
そりゃそうだろう。掘り当てたオレでさえ、いまだに夢でも見ている気分なんだから。
でも、噂を聞き、それを信じてここを訪れる人間がいる。
多くの労力を糧に、生きていこうとする人がいる。
「……ルゼ」
男は緊張したように口を開いた。
「仲間がいるんだ。海を探しにも行けないんだ」
言葉を探す彼に軽く頷いてみせた。
すると、彼は
「ただし、ここで共同生活するには決まりごとがある」
「……ああ」
ごくりとツバを飲み込んで、まるで死刑宣告でも受ける罪人のように彼はオレの言葉を待つ。
その姿に苦笑して、短く言った。
「ひとまず、その青い服脱がない?」
目を見張る彼に今度こそ本当の笑顔を向ける。
「待つだけじゃダメなんだ。だから、自分たちの力で生きていこう」
人も土地も荒廃し、ただ死を待つばかりの世界。
それでもオレたちは生きていく。
最果ての地、名もなき場所――
キミがいてくれれば、そこは地上の楽園になる。
=end=
こちらの作品は突発性企画Series "Colors"「蒼」参加作品です。 |