『未来への邂逅』

  【1】

 暴君と化した王に国民が立ち上がったのが三百年前。当時、宮廷医としての地位を博していたカルマン家は、圧倒的に不利であった国民を守るため、王に反旗を翻した。
 その戦いで、ティネーゼ運河を境に国が二つに割れた。
 それからカルマン家は、敬愛を込めてティネーゼの英雄と呼ばれるようになる。
 パティは部屋を掃除する手を止め、ぐるりと見渡した。その一室は、英雄の血を継ぐ少女の私室である。高い天井に年代物のシャンデリア、大切に使われてきたのが一見してわかる家具の数々は、値も相当はっているがそれ以上に価値があるように思われた。
 もっとも古い家具が三百年前のもの――と言っても、もちろん何度も補修が繰り返されているので、以前とまったく同じものなどひとつとして存在しない。中には金具だけが当時の香りをただよわせている家具もある。
「あら、座椅子の布が……」
 パティはかがんで椅子に触れる。エダが愛用していた化粧台の椅子だ。生地が薄くなり、中の綿がわずかに透けて見えていた。
「大変だわ。直すように手配しておかなきゃ」
 呟いて部屋を見渡した。主人が不在でも念入りに掃除した部屋は、いつも通りとても心地よい空間に仕上がっている。
「今日もいい天気ですよ、エダお嬢様」
 窓をいっぱいに広げ、柔らかな風を取り込んでパティは微笑む。
「今ごろどうしてらっしゃるのかしら」


next→