『大☆興奮』
自習室で設計図を広げていると、ものすごい勢いでドアが開いた。
あ、蝶番が壊れたな、と呑気に思いながら顔を上げたアナシスは、ドアを開けた格好のまま立っているワグナーに嫌な気配を感じて眉をひそめた。
「なにか?」
そう尋ねたのは、もう条件反射である。
まるで少年のように瞳を輝かせたワグナーは、足早にアナシスのもとに近づき、真横に立つなり無遠慮に頬に手をあて、ぐいっとその顔を上向かせた。
「こ、この黒髪、顔立ち! まさか訓練生の中に君がいたとは!」
だからなんの話だ、とは思ったが、相手が相手なので無遠慮な行動も意味不明な言葉に対する苛立ちもぐっとこらえて微笑む。
「気づかなかったなんて一生の不覚っ」
間近で叫ばれて笑顔が引きつった。なんなんだこの男は、とアナシスが思ったのは当然だろう。
次の瞬間、ワグナーは叫んだ。
「ミセス・ロライトのお孫さん――!!」
その一言で、ああ、ばれたのか、と嘆息する。三年間誤魔化し続けるつもりだったのに、どこかでボロが出てしまったらしい。軍の上層部にはひたすら嫌われる女、ミセス・ロライトは、その逆にこうして暑苦しく信奉する者もいるのだ。どちらが厄介かと問われると、どちらも別の意味で厄介、としか答えられない状況である。
「手を放していただけませんか?」
やんわりと頼むとワグナーはあっさり手を放し、代わりにアナシスの手を掴んだ。
鼻息荒く顔を近づけてくる。
「お友達になってください」
「嫌です」
真剣に言う男に、アナシスは顔を引きつらせたまま遠慮ない一言を返す。
そして、手を振り払って立ち上がるなり、唖然とするワグナーに一礼して自習室を出た。
「なんで彼女はああも暑苦しい男にもてるのかな」
可愛い女の子なら大歓迎なのに――そう思って溜息をつく。
問題なのは、暑苦しい男はちょっとやそっとのことではあきらめないという点である。
自習室のドアが再び激しい音を立てたのに気づき、アナシスは肩を落とした。