『彼と刃物と拳銃と』
本を片手にロウェンは
「散弾銃っていいなあ。殺傷能力すげえ。弾けて体中に広がるのか。ん? 空中拡散型もあるんだな」
ほほう、と説明を読みながら感心する。さすがに訓練船は本の品揃えが違う。一年以上在籍して今ごろそんなことに気づいたのは正直遅すぎるが、彼はすっかり本の虜になっていた。
「弾作っておくか。技工科の奴らに依頼すれば鉛の加工は楽勝だし、あと練習場貸し切って試し撃ちして……暴発したらヤバイから、火薬は減らして」
事故のない武器など存在しない。刃物だって扱いを誤れば惨事をまねく凶器だ。だが、暴発したときにどんな状態になるかも興味があり、悩むところでもある。室内を無人にして射撃テストをすれば巻き添えを食う者は出ず、結果だけを確認できるだろう。
しかし、故意に事故を起こしたら退校処分になりかねない。
「今回はあきらめるか。えーっと、必要な道具は……」
本に指を滑らせ、ノートにまとめていく。ルティアナ号に乗船する前は勉強すらろくにしなかったロウェンだが、今ではすっかり学習方法が身についている。
彼が今いるのは本棚が前後左右の壁を埋める一室――ミスティア専用の自習室だ。はじめのころはさすがに息苦しさを覚えたが、慣れれば意外に便利がいい。知りたい情報を手早く集められるというのは予想以上に大きな利点だった。
「ロウェンって本当に銃が好きなのね」
唐突に声をかけられ、ロウェンははっと顔を上げた。エダが部屋にいることをすっかり忘れ、本に夢中になっていたのである。
彼女は分厚い本を広げ、にっこりと微笑みかけてきた。
すると、なんとなく落ち着かない気分になる。
ロウェンは彼女から視線を逸らし、その手元を見て目を細めた。描かれているのは骨格標本だ。骨の仕組みや動脈の位置、筋肉の役割などがざっと示されている。ロウェンにとっては興味のないもののひとつである。あんなもの、部屋にこもって勉強するより実地が一番確実だ。嫌でも体が覚えていく。
「骨格なんてくだらねえ」
「大切なことよ」
「骨の位置なんて場数をこなせば目をつぶってたってわかる。ナイフをどの角度で入れてどう動かせば切り放せるか、体が勝手に動いていくんだ。覚えるまでには苦労するかもしれないけど、首の、骨は――」
意外と簡単にはずせる、そう言いかけて口を閉じた。話しながら自分の指が“その作業”を無意識に行っていたのだ。髪を掴むその感触すら生々しく思い出し、慌てて手を引っ込める。
気味悪がっているだろうな、そう思ってロウェンはエダを盗み見た。
「物知りなのね」
けれどエダは、素直にそんな感想を述べてきた。
「物知りって、お前……」
「私は基本さえ知らないって、ミスター・ワグナーに言われたの。勉強だって、机上でしてたんじゃ知識止まりだって。本当にその通りだわ」
はあっと、大きな溜息をついてエダは本に視線を落とした。
「でも、まず知識をつけなきゃ。わからないなんて……もう、言いたくないから」
瞳には澄んだ光が宿っている。その意外な美しさに目を奪われたロウェンは、そんな自分に気づいて慌てて視線をはずし、咳払いした。
本当に調子が狂う相手だ。
なにもかもにまっすぐ取り組もうとする姿勢を鬱陶しいと思う気持ちがあるにも関わらず、何気ない一瞬にすべてを受け入れたくなってしまう。
「なんなんだよ、まったく」
落ち着かなくて、苛々する。
それでも部屋から出て行く気にはなれず、ロウェンはエダを気にしながらも手元の本へ視線を落とした。
そこにいるのは、いずれ彼にとって特別な相手になる少女。
まだ目覚めることのない、いとけなき女神。