まずは話し合いだ。でも駄目なときは、セオリーどおり拳で会話!
 警戒しつつ何から切り出そうか考えていると、響はじっとこちらを見て、それから背後のドアを眺めて目を細めた。
「お前だけか?」
 明らかに落胆した声音だ。なんて失礼な男だ。まるで期待はずれと言わんばかりの表情をしている。でも負けるもんか。響の後ろに座り込む少女の姿を見つけ、俄然やる気が出てふんぞり返った。
「ぶ、部下は置いてきた!」
 ここは格好良く嘘をつこう。さあビビれ! ……と、期待して見ていたが、まったく動じた様子はない。
「呼べばすぐやってくるんだぞ!」
 もう一回嘘をついてみたが、やっぱり響は平然としている。だが、ハッタリなので部下を呼んだところで何かが出てくるわけではない。
 こ、ここはやっぱり話し合いで解決するしかなさそう。喧嘩では勝てそうにないし。武器があれば……いや、武器があっても、勝てそうにないなあ。
 やだなあ。弁が立つわけでもないから、そっちでも負けそうだし。
 しかし、ここで考え込んでいるわけにはいかない。
「えーっと、とりあえず、お姫様をください」
 単刀直入に言ってみたら睨まれた。ああ、きれいな人って迫力あって本当に嫌だな。でも黙って見つめ合ってても状況は改善されないから、何かネタを振らねば。響の反応しそうなネタといえば……ああ、ひとつあった!!
「そういえば体育館裏に華鬼がいました」
 無意識に敬語になっているのは、別に自分の属性がヘタレだからというわけではない。ただ単に怖いだけだ。
「……体育館裏?」
 響が反芻して「ちっ」と舌打ちする。な、何かまずいことを言ってしまったらしい。ずかずか近づいてくる響にぎょっとして後退すると、彼はそのままドアをくぐり抜けて出て行ってしまった。
「助かった?」
 安堵の吐息をつきながら神無に近づく。しかし、うら若き乙女にこんなことするなんてひどいヤツだなあ。ロープできっちり両手両足を縛られた神無は、様子をうかがうようにじっとしている。
「大丈夫?」
 安心させるために声をかけながら彼女の元まで行き、まずは目隠しを外して猿ぐつわも取って、ロープをほどこうとして……挫折。部屋にある机の引き出しを開けまくって十二個目でやっとカッターを見つけ、慎重にロープを切った。
「ありがとうございます」
 床にちょこんと座っていた神無は、居住まいをただして丁寧に頭をさげた。彼女はきょろきょろと辺りを見渡し、危険がないのを確認して安心したのか、ふわりと笑顔を浮かべた。
 お、お姫様無事救出成功――!!
 その後、お礼に彼女の手料理をご馳走された。
 ……向かいには、不機嫌を絵に描いた華鬼が腰かけている。なんだかちょっと殴り合ったような痣が顔や腕に残っているんだが、……き、気のせい気のせい。
 不審なものには気づかないふりをして、次々と出される食事に舌鼓を打った。
 そして、泊まっていってはどうかと神無に誘われ、もちろんですと返事をする前に、華鬼に締め出しを食らいました。
 ……勇者様って切ない。

=『一歩手前エンド』了=

サイトTop   企画ページTop