部屋の奥には目隠しされ、猿ぐつわを噛まされ手足を縛られた神無の姿があった。い、いたいけな少女になんて非情なマネをしてるんだ、このサド男――!!
 とは思ったが、口には出さない。だって怒らせると怖そうだしね。
 まあダメモトで説得してみるか。
「彼女、美味しくないから返してください」
 ……あ、この言い方は変?
「美味しそうなのは外にいっぱいいるんでそっちにしてください」
 ……これも変か。そもそも、美味しいとか美味しくないって基準は間違ってるなあ。でもどう伝えればいいんだろう。
「お前だけか?」
 唐突に質問されてきょとんとすると、響は険しい表情になった。あ、もしかして、華鬼を待ってるのかな。この雰囲気はそうかも。視線が廊下に逸れたことでピンと来た。ああだから神無をさらったのか……結構わかりやすい性格だなあ、響って。
 でも、華鬼の居場所はわからないから……よし、こうなれば。
「華鬼なら職員室で見かけだけど」
「職員室?」
「生徒指導で呼び出されてたから、まだ当分解放されそうにないよ」
 もちろん嘘です。でも日常的に呼び出されても不思議じゃない男だから、響はいっそう険しい表情になってしばらく考え込み、そして歩き出した。すれ違う瞬間、
「見張ってろ」
 と命じて部屋を出て行く。耳を澄ませて遠ざかる足音を聞き、階段にさしかかったところで拘束される神無に駆け寄った。敵に人質を任せるなんて意外とうっかりしてるな――きっと、自分に逆らう奴なんていないと思ってるんだろうけど、こっちは姫を助けに来た勇者なんだから、悪の手先だか悪の権化ごんげだかわからない相手の言いなりになんてなるものか。
 神無のそばにひざまずいてぎょっとした。
「大丈夫?」
 うわ本当、なんなんだろうあのサド男! ガチガチに結んでるじゃないか。手早く目隠しと猿ぐつわを外し、手と足を拘束するロープを解こうとして失敗し、カッターを探すために立ち上がる。と、何かにぶつかってよろめいた。
「貴様の仕業か?」
 低い声にはあからさまな殺気が混じっている。響のものとはまったく違う抑揚のない声色は、ここいる神無の鬼、華鬼のものだった。じゃあ響とは入れ違いか……!! ほっとした瞬間、神無を見おろしたままの華鬼に胸ぐらを掴まれて焦った。ちがう、誤解、と伝えたかったが喉が絞まって声が出ない。
「華鬼、違うの」
 変わりに言ってくれたのは神無だった。「その人が助けてくれたの」と続けると、華鬼はすぐさま手を離し、ひざまづいて神無の手足を縛るロープを素手で簡単に切ってしまった。
 鬼って便利な生き物なんだなと咳き込みながらも感心して見ていると、神無の礼と華鬼の謝罪が同時に聞こえてきた。
 ……って、謝るんだ。華鬼でも。いや、そりゃ悪いことしたら当然だけど、しかし改めて、大人になったんだね……!! おめでとう!
「大丈夫ですか?」
 神無に訊かれ、華鬼に絞められた喉のことを訊ねられたのだと気づいて苦笑した。彼女の視線が首元に当たってるのを感じる。もしかして、絞められた場所が赤くなってるのかも。
「大丈夫大丈夫。それより神無が無事でよかった」
 まあ だいおうさま は倒せなかったけど、これで一件落着だな。しかしさすがに緊張した。響って表面笑ってるから何を考えてるのかわからなくて余計に怖いタイプだ。
 力の入った体をほぐすためにぐっと伸ばしていると、
「お茶の時間だな」
 と、華鬼がぽつりと口にした。しかも、なんかこっちを見てらっしゃる。何か物言いたげな表情だ。
 ……。
 は!? もしかして誘われてる!? 誘われてるのかこれはっ!!
「よければご一緒させていただきたく!」
 やや壊れかけた日本語で頼んでみると、二つの笑顔が返ってきた。
 穏やかな午後、ご相伴しょうばんにあずかった手作りケーキは最高においしかったことを追記しておく。

『華鬼』を補完しました=


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三番目の黒丸は o です
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