相手が響だろうとひるむものか! っていうか、お前が だいおうさま だろう! わかったぞ!!
拳を握って響に突っ込む。右アッパーをかまそうと思ったらひょいと軽くよけられ、よろめいたところを逆に殴り返された。ぐらぐらと脳が揺れる。体勢を立て直す間もなく背中に衝撃がきて、倒れ込む直前に体を支えようと手を伸ばしたら、腕がおかしな方向に曲がって嫌な音が聞こえてきた。
不思議と痛みはなかった。だけど、明らかにこの腕、おかしいよな? なんで斜めに曲がってるんだろう。そこには間接ないはずなんだけど。
「下手な受け身をするからだ」
呆れ顔で響に言われて茫然とする。ああそうか、あの場合は肩から落ちたほうが被害が少なくすんだのか。そうとも知らず、わざわざ手を伸ばして、腕を――。
「うわぁあぁ!?」
考えている途中で声が出た。声を出してからようやく、自分が叫んでいたことに気づく。これ、折れてるじゃないか! なんで痛くないんだよ!!
「ここを降りて一階にいってすぐ近くの渡り廊下を歩いて左に行けば保健室」
響はご丁寧にドアを指さして教えてくれる。中途半端に親切なヤツだな! でもありがとよ! とにかく保健室! なんかよくわからんけどヤバイ! 怪我して痛くないのって怖い!
言われるまま階段を降り、渡り廊下を突っ切って左に走っている途中で腕がじんじんと痛みだした。
腕をかばいながら早足で移動し、保健室のプレートがかかったドアを乱暴に開いて飛び込むと、のんびりと新聞を読みながらお茶をすすっていた麗二が顔を上げて不思議そうな顔をしてからはっと目を見開いた。
「どうかしたんですか?」
「腕! 腕が!!」
そうそう、腕が大変なんです先生! なんか急に痛くなって! じんじんがズキズキになって冷や汗まで出てきたんですけど!!
「ああ、折れてますね。奥に手術室がありますから移動しましょう」
「手術!? 今から!?」
「急いだほうがいいでしょう」
「でも!」
心の準備がー!!
「大丈夫です、お裁縫は得意ですから」
……う・わー、こんなに怖いセリフ聞いたのはじめてかもしれない。とりあえずここはよくないから別のところに行こう。痛いのは嫌だけど、怖いのはもっと嫌だ。
「あははは。どこに行かれるんです?」
まわれ右をすると肩をがっちり掴まれた。って、動き速くないですか?
「逃がしませんよ。久しぶりのお客……もとい、患者ですから」
いまなんか変な間違えかたした! 目ぇ爛々としてるし! 笑顔が最高に怖いんですけど、高槻麗二先生――!?
「大丈夫、ちょっとチクッとするだけですよ」
しかも大嘘ついてる――!!
こうして、手術室の明かりが灯った。
その日、文字通り「まな板の上の鯉」を体感した。これは一生記憶に残りそうだ。よくない意味で。
=『VSエンド』了=