しまった! ティーセットってかなり重い! 魔法瓶も重いけど、カップやティーサーバーも意外な重量になるの忘れてた。しかも、非常食になるかと思ってケースに入ってたお菓子まで持ってきたせいですごいかさばってる。
 腕の感覚がなくなってきてぎょっとした。でも、ひとりで食べるのは寂しいし、かといって捨てていくには気がひけるし。うーん、どうしたものか。
「腹減ったー。もう歩けないっ!!」
 立ち止まって考え込んでいると、そんな叫び声が聞こえてきた。人がいるらしい。痺れはじめた腕を庇いながら大慌てて近づくと、座り込んでむくれる陸と、彼の目の前で呆れ顔をしかめる要の姿があった。
「いいから立って歩け! もう少し行ったら森から抜けられるはずだから」
「嫌だ。疲れた」
「お前のほうが俺より体力があるだろうが。甘えるな、吊るすぞ」
 うわぁ、なんてストレートな脅し文句。出て行きにくい。でも森の出口がわかるという言葉は魅力的だ。ここは腹をくくって行ってみるか。
「あのー」
 張り付いた木から離れて顔を出すと、二人は目を丸くしてこちらを見た。なんだこいつ、という心の声が聞こえてきそうな表情だ。
「お茶でもいかがですか」
 あああああ、怪しい。非常に怪しい。自分で言うのもなんだが、森の中でいきなり茶に誘う奴があるか。前置きくらいしないとまんま場違いなナンパじゃないか。
「え? お茶あるの?」
 しかし危惧はなんのその、陸はぱっと立ち上がってこちらへ近づいてきた。
「その入れ物? おお、本当だ、お菓子まである。要、お茶飲もうぜ、お茶!」
 すさまじい順応力を発揮して、陸はひょいとティーセットを受け取り茶を淹れはじめた。ひとりで迷ったときはさすがにヒヤヒヤしたが、新緑の中でお茶会ができると思えばこれはこれでおつなものじゃないか。
「あ、いい香りだな」
 陸が実に嬉しそうな声を出す。
「そうだ、祥子さん……要の母ちゃん、すっごい菓子作りうまいんだぜ。今度食べに来る?」
「行く!!」
 うまい菓子とな。それは行かねばなるまい。
 その後、目的を忘れて茶会に興じたのは言うまでもない。
 お姫様の行方はようとして知れず。

=『お茶会エンド』了=


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